幸福ということについて考える。

故・児玉清氏がたいへんな読書家であったというのは有名な話。
本にまつわる色々な逸話を遺されていますが、わたしの大好きなものにこんなエピソードがあります。


児玉氏は海外によく行かれていたのですが、ある時ロンドンに向かうときに、読みかけの翻訳小説を持って行こうかと迷われました。しかし大長編であるがゆえにかさばるので、最終的には荷物に入れずに飛行機に乗ったそうです。
しかし、機内で無性に物語の続きが気になり、うずうずしてきた氏。ロンドンに降り立つやいなや、書店に直行して英語版である原書を購入されました。
そうしてご満悦で読み進めたそうですが、その後、氏はベルリンに移動しなくてはならなかった。
その時も迷われたらしいのですが、とにかく分厚い本だった(※海外では長くても上下巻に分冊したりはしないので、長編であれば辞書のように束が厚い場合が多々あります)ので、読みかけの原書はロンドンに置いていったそうです。
しかし案の定、ベルリンに向かう道すがらで続きが気になってならなくなり…
結局、ベルリンに到着後も書店に飛び込み、今度はドイツ語版を購入して、ベルリンにて完読されたそうです。


手元に同じ本が3冊、3言語で。
世界を股にかけ英語もドイツ語も解した児玉氏ならではのエピソードではありますが、
「続きが読みたい」という渇望と情熱、そんな本に遭えたことの幸福感─すごく、すごくよく分かります。


そんな物語に出遭いたくて、今日もわたしは本を読む。


ちなみに、児玉氏を駆り立てた本とは一体どんな本だったのか?
ドラマ化もされた、こちらです。

原書の第1作目は983ページ!続編は1200ページ!
実は未読なので、そろそろ読んでみたいと思います。


先日読んだのは、こんな本。

消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし  角川SSC新書 (角川SSC新書)

消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし 角川SSC新書 (角川SSC新書)

親しい友人にデンマーク人の恋人ができたことがきっかけで、デンマークという国に関心を持っています。
福祉・高負担でも世界一幸福度が高いというデンマーク、その概要がざっくり分かる本です。


不況、不安定な政治、原発に代わる電力…
様々な問題を抱えた日本、今後進んでいくべき道はどこにあるのか?
国の規模や環境も違うのでそっくりそのまま真似をすることはできないと思いますが、学ぶことは多いと思います。ロールモデルにはなる。


しかし、幸福度調査では1位であるのに、デンマークでは自殺率も相当高い、ということには驚かされました。
金銭や健康に不安がないということと、心の充足ということとは、必ずしも比例しない…と、結論づけるには、「幸福度」という目に見えないものの調査方法にも疑問がないわけではないので、尚早とは思うけれど。
ワールド・バリューズ・サーベイの幸福度調査では、2位と3位がプエルトリコとコロンビアであるということにも、なんだか色々考えさせられます。


わたしができることなんて本当に小さくて、社会からしてみたら取るに足らないことばかりだけれど、だからって何も感じずに、目の前の娯楽や享楽に身を投じてばかりいられるはずもなく。
国や社会のことを考えること、意見を持つことはやめたくない、と、思います。

2011年4月17日─4月18日。

この6年、4月18日はわたしにとっては友人の命日だったけれど、ここ1年程で親しくなった人の誕生日でもあることを、先日知りました。
これからは命日に彼を偲ぶことではなく、誕生日をお祝いすることの方がおっきくなったりするのかな。


あれ以来「彼のぶんまで生きて」という言葉をよく耳にしたけれど、それには夭逝した人の遺族に対する決まり文句という印象しかなくって、正直ピンとくる言葉ではなかった。むしろ、そんな言葉を口にできる人をうっすら憎んでさえいたと思う。
でも、最近ふいに合点がいって、それを負うことができそうな気さえしてきました。


生きていくということは、こういうことなんだと思います。


それにしても。
17日に行った野外フェス「道との遭遇」@上野水上音楽堂の余韻が、今も冷めやりません。豪華なメンバーと豪華な選曲だった。


ビートニクスだった!


すごーく月並みだけど、「音楽ってすごいな」と改めて思いました。
それまで見えていた世界の色を、いとも簡単に塗り変えられる。
新しい色に。

マシュー=ヴォーン監督『キックアス』を観ました。

水曜日。いくつかの映画館で映画が1000円で観られる日。
なんだかどうしても気になる、どうしても観たい映画があって、会社帰りにシネセゾン渋谷まで走りました。間に合いました。

マシュー=ヴォーン監督『キックアス』。
監督としては目立った公開作品がないように思える方ですが、大好きなガイ=リッチーの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』のプロデューサーなのです。そういえばあれも公開時にシネセゾンで観たなあ。

キック・アス DVD

キック・アス DVD

いわゆる「オタク」な高校生男子が一念発起し、覆面ヒーロー姿に扮して街のパトロールをはじめる。
ヒーローの姿をしてても中身はただのひ弱なオタクだから、当然各地で痛めつけられるんだけど、ある晩、気合いでギャングに打ち勝つ!
その動画がYouTubeにアップされ、彼は「キック・アス」という名のヒーローとして一躍有名人に。
その動画をきっかけに、いろいろな偶然と必然が重なって、彼は、極悪非道なマフィア×マフィアに恨みを抱えて特殊訓練を重ねたスーパー父娘の死闘に巻き込まれていく…。


思ってたより「血だらけ!」「いいい痛い!」という場面が多かったけど、総括すると、痛快な映画でした。
どこまでも強い父娘(お父さんはニコラス=ケイジ)、特にまだちっちゃい娘のアクションシーンの俊敏さ、凄絶さに口あきっぱなし!
全体的な起承転結としては勧善懲悪、オーソドックスで想定内なんだけど、「承」と「転」の奇天烈なシチュエーションにもあんぐり・・・オタク高校生が正義感をバネにあっと驚く成長を見せるところにも、スカッとします。


観にいってよかった。


ひとりで映画を観にいったのって、2年以上ぶりくらい。実は、読書量も格段に減っていました。
わたしはここしばらくで、独りの時間の使い方がずいぶんヘタクソになってしまっていたみたい。
別のことをたくさん学んでいたわけだけれど、なんだか自分の愛する文化的な諸々に対しては、とてもつまらない人間になっちゃっていたなあ、反省。
バランスって、難しい。


少しずつまた自分をとり戻して、今年は好きなことをいっぱいしたい。



エンドロールで流れるMIKAの曲、ふさわしくてすごくよかった。

Innocent When You Dream.

恵比寿ガーデンシネマが今月末に閉館するそうです。
ガーデンプレイスができたばっかりの頃はまだ高校生で、何を観に行ったかは忘れてしまったけど、初めて足を踏み入れたときはなんだかすごくオシャレな大人になった気がして、ドキドキしたのは憶えてる。
(結局いまだまったく「オシャレな大人」にはなってないわけですが・・・)
最近はめっきり行かなくなったけれど、なんだか寂しい。思い出はたくさんあります。


『ニル・バイ・マウス』を観た後、ガーデンプレイスをしばし無言で歩いたこと。
大好きなアルトマンの『ゴスフォード・パーク』に亡くなった友達を連れて行って、終映後に鼻息荒く感動を分かち合おうとしたら、先手をうって「まったく意味がわからなかった」と言われたこと。
台風の日に雨風に打たれながら『モーターサイクルダイアリーズ』を観に行って、すかすかの劇場でガエル・ガルシア・ベルナルにうっとりしたこと。
P.T.アンダーソンやキム=ギドクの何かもここで観たような・・・ たぶん他にももっとある。


最後の上映作品は、なんと『スモーク』!
クライマックスのトム=ウェイツでは泣いてしまいそうです。観にいきたいけど、激混みなんだろうな。


シネセゾン渋谷も、2月末に閉館。うちの業界もたいがいだけど、映画業界も厳しいのでしょう。


東京で長く遊んでいると、この類の寂しさにたくさん出会います。
でも、齢をとるとどうしてもこういう「喪失」の寂しさに心を動かされがちだけど、「昔はよかったな」なんて言ってばかりいる中年にはなりたくないので、もっともっと、フットワークを軽くしていきたいな。

サヨナラからはじまること。

色々あったから音沙汰なかったわけではなくて、
ケータイをAndroidに変えてから、すっかりtwitterっ子になっていたのでした。

なんだか1年あまり、大人の春休みでもとっていたような気持ち。
人生に対して日和見になっていたことも、楽しいだけで実がなかったことも、認めましょう。私らしくなかった。


さて、夢の続きはどうしたんだっけ?
探しにいこう、2011年。

TOKYO DESIGNERS WEEK 2010。

今年もチラ見してきました、東京デザイナーズウィーク


様々なモノやコトをデザインするセンスって、訓練でも身につけられるとは思うけれど、割と才能に依るものが大きいんじゃあないかと思っています常日頃。


デザイナーとかそういう職業の方ではなくても、たとえば家の家具の色合いとか、カトラリーと食器の配置とか、洋服の収納の仕方、贈り物やカードの選び方、ちょっとした図案の書き方とか、身近な人たちのそういうセンスを垣間見て、「あ、こういうふうにすればいいんだ」って目から鱗が落ちることって、日常生活に多々あって。
わたしはそういう事柄に対する感覚、物事を点ではなく、面や線で見てアウトプットする感覚が、とても鈍い方だと思っています。空間把握能力に欠けているというか。センスがないというか。


だから、いつも羨ましくて仕方ない。
羨ましくて仕方なくて、展示会や美術展に足を運びます。
自分からは産まれようがない刺激に、絶対に「すごい!」って駆り立てられるのが分かっているから。それが嬉しいから。
いつも発奮していたいんだと思う。


で、デザイナーズウィーク。楽しかった!
OZONEで見たHOW ABOUT VIKTORというフィンランドの会社のソファーに、ひと座り惚れしました。

見かけは妙だけど、お花みたいに拡がった突起が、自分の背や肘をちょうどいい位置で支えてくれて、座れるしー寝転がれるしー足ものっけられるしー。
まだプロトタイプのようだけど、ほしい!
デザイナーはYukiAbeというフィンランド人と日本人とのハーフの男性のよう。彼の作品は「HANABI」とか「MANEKI」とか、なんだかステキなネーミングでした。
やっぱりヘルシンキは夢の街だなー。


もう停滞しているのはイヤだな、頑張ろう。そう思える、こういう刺激が大好き。

何かで埋めようと、必死になったりなんてしない。

おおきな木。

台風一過、東京農大の収穫祭へ。
あまりに混んでいたので、夕飯はタヴェルナ・アリーチェへ行きました。

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アンティパストも各種パスタも本当に美味。青山や麻布でもっと高いお値段をつけて商売しても、たいへんな人気店になるだろうなといつも思います。
でも世田谷の片隅で、地元の人たちが気軽に美味しいイタリアンを食べられる場を作ってくれたのが、このお店の功績であるとも。
カウンター越しに世間話をしてくれるシェフの方の、気さくな人柄もステキ。

食後にサービスしていただいた自家製のリモンチェッロ。レモンの味が効いていて、う〜ん、これまた稀有な邂逅。


そして、農大で購入した焼酎を堪能。

なんだかキュウリの味がするような。


小さな頃に大好きだった『おおきな木』。

おおきな木

おおきな木

はじめて読んだ原書と、村上春樹氏の新訳と、旧訳を読み比べるという体験。村上春樹氏の翻訳の方が、旧訳よりも原書に忠実でダイレクトな訳です。「今」という時代に合っているのだろうな。翻訳も生き物であり、移り変わるもの。
あとがきを読んで、この物語の真髄、そして、物語の持つ力を再認識しました。わたしはハルキストではないけれど、何かしら凄いものを持っている作家ではあると思っている。


友人が『おおきな木』に出てくる木がわたしのようだと言いました。
無償に与え続ける母性。うーん。
でもわたしはやっぱり、与えるばかりではなくて、時に未熟なわたしの道を軌道修正してほしいし、話しているうちに何かしら拓けるものを得たいし、何よりわたしの気持ちを考えてほしい、分かってほしい。


束の間に気持ちよかったり楽しかったりするばかりでは、いたずらに時間が経ってしまうだけだ。それだけでは、もうこの先どこへも行かれない。


わたしは本当に友人に恵まれている。
それはかけがえのない財産で、いつもいつでも、いくら感謝しても足りない。