ターセム監督『落下の王国』を観ました。

これまでたくさんの映画を観てたくさんの本を読み、たくさんの物語に感動してきましたが、口下手というか理路整然さに欠けるというか、わたしはそれらの物語を人に話して伝えることが、とても不得手です。
2つ前の会社では本を紹介する仕事をしていたので、「物語営業」が上手な先輩や同僚がいっぱいいて、いつも羨むと同時に、彼女たちが会議や営業先で語り聞かせてくれる物語を、お客さんのように楽しみにしていました。
話の巧さは、その人の誠意や善行を顕すものではありませんが、ひとつの才能ではあると思っています。そしてわたしは、それが自分にないものなだけに、物語りが上手な人に著しく惹かれる傾向があります。そんな経験はまだありませんが、文学的な詐欺師に遭うことがあれば、コロッと騙されてしまうのかも。


『落下の王国』のこともある人から巧みに語られて、どうしても観たくなってしまい、仕事帰りに走って観にいってきました。
そしてこの映画自体が、青年が少女に壮大な物語を語って聞かせる作品だったのです。


撮影中に足の怪我を負い、そのせいで役も恋人も失くしたスタントマン・ロイ。彼は人生に絶望し、同じ病院に入院中の少女・アレクサンドリアと交流を持つようになるも、彼女を利用して自殺のための薬を調達することを企てはじめます。彼女を誘導するために、勇者6人が暴君と闘う愛と大冒険の寓話を即興で捏造し、彼女に毎日語って聞かせるようになります。そのうちに、ロイとアレクサンドリアは心を通わせるようになり、ロイ自身も思いもよらなかった方向へ物語が転がりはじめるのですが…


というお話です。寓話と現実の世界が交差しながら進展する、いわゆる「再生」の物語で、まあ、ありがちな展開ではあるのですが、想像力や創造力が現実を癒し、変えていくということには大いに心を揺さぶられました。バートンの『ビッグ・フィッシュ』を思い起こさせます。先日観た『パコと魔法の絵本』もある意味同様な。


しかしこの映画の核は、ロイが語る冒険譚の舞台となる美しい映像です。
世界遺産を含む世界各地の景勝地で撮影された映像は一切のCGを含まず、4年の歳月をかけて構成されたといいます。石岡瑛子がによる、色彩豊かで独創的な物語の登場人物たちの衣装とあいまって、圧巻の映像美!
序盤で出てくるヒマラヤ山麓の広大な砂漠のシーンを観ただけで、もう、わけもなくぶわっと涙が溢れそうになりました。美しいものに対する感動というのは、思考や意味より先にまず、肉体を反応させるものですね。その後も息を呑むこと度々。ファンタジーと現実をこちらまで混同しそうになり。


これはなんとしても映画館の大スクリーンで観るべき作品です。

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