平坦な戦場で僕らが生き延びること。

本を探して会社の人の机をあさっていたところ、懐かしい著者の本を見つけました。
岡崎京子岡崎京子の作品で唯一マンガではない物語集『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』です。
未読であったので、貸してもらいました。

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

岡崎京子の漫画本に綴られたあとがきは、切なくて哀しくて余韻があって、それぞれとても好きでしたが、こうしてまとめられた物語集になると、ちょっと違うかな。飽和状態というか、むせ返りそうになります。美しく切ない言葉の連なりには逐一グッと胸が痛くなる部分が多く心が揺さぶられはするのですが、その感動がバラバラと分解されてるカンジ。やっぱり彼女は漫画家なんだと思います。


岡崎京子
彼女の登場を機に、少女漫画に桜沢エリカ安野モヨコ南Q太魚喃キリコなどの新しい潮流ができ、そして、彼女は主にわたしより少し上の世代の、1980年代後半〜90年代初頭に青春を謳歌したサブカル系少女の、「カッコよさ」の象徴であったのは周知の話です。


まあ、多少時代がズレているわたしにとっては、時代の空気には関係なく、ただ『りぼん』や『別マ』のような少女漫画ではない、何か新しいタイプの漫画を求めていて、成長過程において出会ったというだけなのですが、岡崎京子との出会いは、特に『リバーズ・エッジ』との出会いは、自分にとってエポック・メイキングなことではありました。

リバーズ・エッジ (Wonderland comics)

リバーズ・エッジ (Wonderland comics)

16歳の頃にはじめて『リバーズ・エッジ』を読んだとき、正直わたしはその内容をよく解っていませんでした。「なんだかちょっと尖ってて、これが他と違ってカッコイイのかな」、というくらい。
しかし高校を出てから再読したとき、わたしは大きく揺さぶられ、ハラハラと涙を流し続けました。
どう表現したらいいかわからない、それまで学んだ一義的な言葉では表現できなかったもの、誰も説明してくれなかった曖昧模糊とした感情や気持ちが、すべてここにあると思いました。
恋をして両思いになるとか、好きだから付き合うとか、愛してるから結婚するとか、想いが伝わらなかったから失恋するとか、頑張ったら褒めてもらえるとか、頑張らなかったからビリっけつとか、そんな風にシンプルに区分けできる事柄や想いばかりで人生は構成されていない、と。
愛したいけど愛せない、愛されたいけど愛されない、伝えたいけど伝えることすら判らない。そもそも人を愛するとか好きとかってなんだ?何が幸せということなんだ?普通に生きることって、ものすごく難しくて鈍感なことだ。


以降岡崎作品をすべて読破し、他のさまざまな物語に出会い、ずいぶんと大人になった今でも、読み返すとクッと胸が苦しくなる作品です。やっぱり、彼女は本当に凄い人だと思います。
そして、この作品のあとがきは、秀逸。