『金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話』を読みました。

タイトルそのまま、金原瑞人さんが選んだYAの短篇を集めたアンソロジーです。
それぞれの短篇の内容もさることながら、セレクションの着眼点が他にはなくユニークと思いました。さすが。
なかでも、角田光代の『「共栄ハイツ305」杉並区久我山2−9−××』、これが“YA”として収録されていたのはオドロキ。
これってYA?恋愛は年齢ではないとは思うけれど、20歳にも満たなくてこれがわかり得るのでしょうか。
まあ、それは置いておいて、この短篇、YA世代をとうに超えたわたしには、痛切に響きました。


好きでたまらない男と念願かなって同棲をはじめた20代半ばの主人公。しかし一緒に住んでも、自由でいたいという理由で無職でいる年下の男との心の距離は縮まらない、むしろ遠ざかる。遊び歩いて帰ってこない男を想って悶々とし、やがて彼女は次から次へと他の男と性交を重ねるようになります。そうすることで、彼女はかろうじて心の平衡を保つのです。


誰かを好きでいて、その好きな人と眠るというシンプルな幸せに安堵するということ─それを信じて疑わず人生を終える人もいれば、どんなに願ってもそこへ辿りつけない人っているし、そういう人生の時期にはまってしまうことって、あると思います。
誰かを好きになっただけなのに、どこかでほんのひとつボタンをかけ違え、ひしゃげてしまう心、歪んでしまう関係。
若気の至りと言ってしまえば、それまでなのですが。


角田光代は、言葉にできない感情や思いを切りとって物語に落としてみせてくれる稀有な作家と思っていますが、特にこの短い小説は、極めて日常的なシチュエーションをモチーフにし、簡素な言葉で綴られていながら、凄味すら感じました。


切ない。