旅は続く

初めて訪れた真夏の祇園祭の賑わいをひとり抜けて、冷房の効いたお店のカウンターでキンと冷えた生ビールを飲みながら、スパイスカレーを食べた。
その時に店内のBGMで流れてきた曲にハッとした。

フィッシュマンズの「いかれたbaby」。

何年ぶりに聴いただろう。
あの曲に特別な思い出はないけれど、自分が通りすぎてきたある特定の時期に、とてもよく聴いていた曲。その時期の空気感が思いがけず蘇って、瞼の奥がジンとした。

うだるような暑さ、祭りの喧騒、涼やかな風鈴の音、初めて入ったカレースタンド、冷たいビール、知らない土地でひとり、ふいに流れてくる懐かしい曲。

旅のこういう一時は、この先何度でも訪れるものではない。けれどわたしはこの先、こんな一時をきっと何度も思い出すだろう。それはこれからのわたしの人生の、杖のようなものになる。

旅なんて特に好きとも思わずに、むしろ面倒と思いながら、時に必要に迫られて、時に誘われて続けてきた人生だったけど、必ずしもやるべきことではなくなってから、わたしは初めて旅の醍醐味を実感している。