その心ごと、生きていく。

f:id:coinoue-a:20170618203034j:plain

ケネス・ロナーガン監督『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観る。と言っても観たのは3週間も前。なかなか言葉に起こせない、けれど残しておきたい、そんな感情をもたらす作品だった。

生きていると、人は大なり小なり、生涯取り返しのつかないことをしてしまうことがある。人生はドラマみたいに、エンディング間近でまるっと収拾できることばかりではない。臍を噛むような出来事に遭遇したとき、あるいはそれに気づいたとき、人の青春期は終わるのだと思う。

フラッシュバック的に入る過去のケイシー・アフレックの「その出来事」以前の、少年のようなやんちゃな表情と、現在のやつれた表情の落差が、彼の深い慟哭を倍増させる。"I can't beat it" (どうしても乗り越えられないんだ)という彼の嘆きが、とても現実的であるがゆえに、心に深く突き刺さる。

 

この映画に、目の醒めるような再生や救いは決して訪れない。じわじわと前へ進めるかもしれない、そんな微かな予感を残すのみだ。しかし、そのリアリティが、同様の悲しみやつらさを抱える我々の孤独に、優しく寄り添ってくれる。

取り返しのつかないことは抱えて生きていくしかない。抱えながら生きる方法を探ってあがくしかない。それを引き受けるにはとても時間がかかるし、独りでは決してできないことではあるけれど。