日本警察史上、最大の不祥事

白石和彌監督『日本で一番悪い奴ら』を観る。

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出先で、ふいに「時間あるし何か映画でも観ようか~」と思いついて、「そういえば予告編で観た中村獅童のヤクザぶりがハマってたな~実際の事件を基にしているのも興味深い、これにしようか」という軽い気持ちで観たので、特に期待もしていなかったのだけれど、上映時間の2時間と少し、飽きずにテンポよく楽しめた。

2002年に発覚した、北海道警察の不祥事である”稲葉事件”をモチーフにしたストーリー。”稲葉事件”とは、一人の現職警察官が覚せい剤所持と銃刀法違反で逮捕されたことにより、道警の組織ぐるみの不正が発覚した事件である。

中村獅童が観たくて決めた映画だったけれど、綾野剛の演技がすごかった。体育会出の不器用な新米警察官・諸星が、若さゆえの野心と使命感から花形捜査官にのぼりつめたものの、積み重ねた不正のつじつま合わせや裏切りによって坂道を転がり落ちるように堕ちていく、そんな一人の男の30年近くの人生を、体型のコントロールも含めて、見事に演じ分けている。

新人の頃のおどおどキラキラした青年の表情、脂ののった20代後半~40代前半の、すすきのを闊歩する豪快な所業、そして覚せい剤にはまり思い出にすがる虚ろな逮捕前…綾野剛がこんなに凄みのある俳優になっているとは思わなかった。覚せい剤を初めて打つ場面と、ラストシーンが特に必見。

同監督の『凶悪』は、俳優陣の演技力に感嘆するもひたすら嫌な後味が残る映画だったけれど、この映画も気分のよくない題材ではありながら、誤った方に向かってしまったものの、主人公・諸星のすべての行動の源には、組織に対する忠誠心と仲間に対する信義があるので、哀愁はあるが『凶悪』のような閉塞感は残らない(諸星、間違ってはいるんだけど)。全盛期に綾野剛中村獅童が仲間たちとテンポよく悪事に邁進する様は、男たちが仲良く活気にあふれ楽しそうにつるんでいて、さわやかな青春映画の様相すら感じさせた。

活き活きした場面で流れる、少しユーモラスな中東っぽい音楽もよかった。逆に最後はスカパラでなくてもよかったような…。

綾野剛はこれから30代後半、40代、それこそ脂が乗ってくる時期だ。深作欣二みたいなヤクザ映画もハマりそうだけど、深みのある人間ドラマを演じる彼も観てみたい。