香水と本と思い出。

週刊新潮の『私の名作ブックレビュー』というコラムで、石田衣良が、「伊丹十三のエッセイは、高校生のぼくにとってバイブルに等しかった」と語っていました。パスタはアル・デンテに茹で上げ、スポーツカーはこう運転し─彼は伊丹十三のエッセイにより、「カッコいい大人の男性」の具体的指針を得たといいます。

女たちよ! (新潮文庫)

女たちよ! (新潮文庫)

石田衣良がどうこうというのは置いておいて、少年少女時代に読んだ本で大人の世界を垣間見て、意味もわからず憧れる、という感覚はとてもよくわかるなあと思いました。
♪子どもでいたーい ずっとトイ○ラスキーッズ…と子どもたちが歌うCMソングがありますが、あれはあくまでも大人が作った大人のピーターパン願望であり、子ども自身が「子どもでいたい」などと思うことはなく、子どもはいつの時代も背伸びしたいもので、大人の世界をつまんだ気になってはドキドキする生き物と思います。


そういう意味でならば、わたしの幼い頃の「カッコいい大人の女性」の指針は、小学生の頃から何度となく読み返した、森瑤子でした。
ライフスタイルにしろ、嗜好品にしろ、結婚観、恋愛観、セックス観…なんだかピンとはこなかったけどとてもカッコよくて刺激的で、こんな颯爽とした大人になりたい、というか、なるんだろうな、とローティーンのわたしは勝手に思っていたものでした。

ハンサム・ウーマンに乾杯 (ランティエ叢書)

ハンサム・ウーマンに乾杯 (ランティエ叢書)

まあ、一端に“大人”と呼ばれる年齢に達した今、“森瑤子”的なモノたちからは程遠い生活を送っているわけで、今となっては憧れもへったくれもなく、今誰に憧れるかと問われればどちらかというと向田邦子白洲正子なのですが、当時森瑤子の文章に抱いた憧憬の名残りは、未だにわたしの人生のそこここに現れているような気はします。


そのひとつが、香水。
森瑤子のエッセイに、こんなエッセイがあります。


初夏の夕刻、胸の空いたシンプルなドレスを着て鏡の前に立ち、何かが足りないと思う。
30代まではシンプルなドレスにはここぞとばかりにアクセサリーをジャラジャラつけたものだが、40代となった近頃の彼女にはそのギラギラした感じがとても疲れる。
でも何かが足りない気がして、パールのネックレスをつけてみたり、ブローチをつけてみたり、色々試してみるのだがしっくりこず…
そのとき、香水のコレクションに目がいく。
アレも違う、コレも違うと香りの記憶をなぞった結果、彼女が行き着くのはディオールのメンズのオー・ド・トワレ“オーソバージュ”。
甘さのまったくないその香りこそが、白いシンプルなドレスをまとったその日の彼女に足りないものだった─


香水といえば母の臭い匂い、という苦手意識しかなかった小学生のわたしは、「香水ってそういう用途に使うんだ!」と目からウロコ、その文章がとっても気に入って、何度もそこばかり読み返しました。
その他にも、シャネルの5番をパリでつけていたらすごくよい香りだったけれど、日本に帰ってきてつけたら空気が違うせいか安っぽかった…とか。森瑤子の香水に関するエッセイはなんだかとってもカッコよかった。
服装やシチュエーションや季節、会う人によって香りを変えたりすること、香りが記憶を呼び戻すということ…大人だ!大人の女だ!と興奮したものでした。


まあ、今思うとちょっと気障だなという感じなのですが、そんな刷り込みのせいか、今でも香水がとても好きです。
といっても、狭義でいう「香水」=パルファムはわたしにはきつすぎるので、オー・デ・コロンかオー・ド・トワレです。朝つけたら数時間しか持続しません。なので、ほぼ自己満足の世界であり、さらに、皮膚が弱く、鼻にもアレルギーがあるので、何でもかんでもつけるというわけにもいきません。



日常的に一番愛用しているのが、ブルガリのオーテルージュ。トップノートがオレンジベルガモット〜紅茶の香りになって〜最終的にはムスク系に変化します。スニーカーとかパーカーとか、とことんカジュアルな格好をしているときはギャルソンのシャーベットを使っています。爽やか。


あとは、友人に貰ったクロエのオー・ド・パルファム、とっても女性っぽい香り。



瓶があまりにカワイイうえにとっても女性っぽい香りなので、もったいなくてあまり使えていないのですが、結婚式の2次会などのパーティーでドレスを着るときにふりかけてます。


基本的には、外見に反して甘い香りが好きです。大学生の頃は、ヴィヴィアンのブドワールやエリザベス・アーデンのグリーンティ使っていました。




ブドワール、今香ると激アマ!正にヴィヴィアン系のお洋服を着ている女の子がゴテゴテつけてやっと納得できるような香りです。こんな香りをつけてたわたし、公害だったかもしれません…。


男の人が香水をつけるのを嫌いな人も多いですが、わたしは男性のさりげないオーデコロン使いも好きです。
10年くらい前にものすごく流行していたジバンシィのウルトラマリン。



少しフルーツっぽいこの香りって、今や古くさいのかもしれませんが…昔から、好きです。この香りがすると例外なく振り返ります。
最近では、ボディスプレーAXEの香りも好き。



数多ある種類でこの“エッセンス”が恐らく一番甘い香りで、一番好き。
AXEをつけている男に女の子がバァーッと群がっていくCMが放映されていましたが、ちょっとわかるかも。まあ、値段が安いだけに、間違ったつけ方をすると安っぽい香りになりそうなのがたまに傷ですが…


まあ、香水というのはつけてる人の体臭や量にも大きく左右されるので、同じ好きな香りでも、人によって「臭い!」と思うことも多いですね。
気をつけなくてはなりません。


蛇足ですが、香水にまつわる小説といえば、映画にもなったパトリック=ジュースキントの『香水』。

香水―ある人殺しの物語

香水―ある人殺しの物語

18世紀のパリ。不遇な環境に産まれたものの、天からずば抜けた嗅覚を授かった男。ひと言でいうならば、その天賦の能力が彼の人生を狂わせるお話です。というか、イカれた男が並外れた才能を持ってしまった悪夢というか。不気味。醜悪。奇想天外。しかし、傑作です。