矢口敦子『償い』を読みました。

償い (幻冬舎文庫)

償い (幻冬舎文庫)

読みたい本はいっぱいストックしてあるものの、「積読」状態になって早1ヶ月以上滞っていたのは、すべてこの本のせいです。
毎日通勤のカバンに入っているのに、まったく読み進めない。文体が合わないのか、季節や心境が合わないのか、とにかく入り込めないのです。こういう本って、たまにあります。
でも30万部だか50万部だか突破している本だというし…前々職の後遺症か、ベストセラーが気になります。とにかくこれを読破せねば、次の本を手にとれない。
というわけで、休暇を利用して、意を決して読みきりました。


子供の病死と妻の自殺という重苦しい出来事を機に、人生をドロップアウトしてしまった元医師。彼がホームレスとして暮らす街で殺人事件が相次ぎ、警察に見込まれた彼は、探偵役を担うことになります。調べるうちに、彼の過去と密接に関わる少年の存在が浮き彫りとなり…


という物語です。途中、浦沢直樹の『MONSTER』を彷彿とさせる展開が。
面白くないわけではありませんでしたが、ミステリーを求めて読む小説ではないと思いました。内省的で、哲学的な部分が多く。
訴えたいことが明確なのはよいし、胸に迫るフレーズもありましたが。
心に深い闇を抱えてしまった主人公・日高、容疑者の妻・夕子、少年・真人というペシミスティック=トリオの心の葛藤や哲学を繰り返しうんざりするほど読まされた後(それはそれで考えさせられるのですが)、日高の元同僚・美和子が、それらを数行で一蹴します。それが爽快。
心のデフレスパイラルに堕ちてしまった人間にとって、きっと彼女の竹を割ったような考え方は救いにはならないのですが、真理であるにしろないにしろ、相対する価値観というのは、一筋の光明になることがあると思います。
苦悩には、必ずしもシンパシーが特効薬ではない。
にしても、物語としては何十万部も売れるべく作品かというと…出版社×書店の仕掛け勝ちという印象です。そういうの、最近めっぽう多いなあ。


何にせよ、すっきりした!