木原武一『ゲーテに学ぶ幸福術』を読む。

新潮選書 ゲーテに学ぶ幸福術

新潮選書 ゲーテに学ぶ幸福術

ゲーテは75歳のときに生涯を振り返り、「自分が人生で本当に幸福であったのは、4週間くらいなものであった」と言い残したという。
75年のうちで4週間、成人からを数えるとしても55年、2年に1日くらいしか幸せでなかったという計算になる。とめどなく恋愛ばかりをしていたゲーテにとって、それは少なすぎやしまいか?と著者は分析するのだけれども。
1/730の確率で心底幸せであるということ、それを少なすぎるととらえるか、充分だととらえるか。
心底の幸せなど一生感じなくてもいいから、少しの幸せがもっともっと欲しいと思うだろうか?あるいは自分はもっと"本当の幸福"を感じる時間が長いに違いないと思うか?
なんの迷いも不安もなく本当に幸福だ、と感じることはいつでも瞬間でしか訪れない。
温泉に浸かってああ幸せだなと思えば次の日の仕事を思い出して憂鬱がかすめるし、恋人と心を通じ合えてああ幸せだなと思えばふっと相手を失うことを巡らせて怖くもなるし。
きっと2年に1日といっても、1440分が730日に散りばめられているのだと考えれば、1日に2分近くは"本当に幸せだ!"と感じられるということになる。それってば結構いい人生なんじゃないか、とわたしは思えるけど。
石橋を叩きすぎて渡らない人や臆病者は、少しの幸せは知っても、至福を知らないのです。