奥田英朗の『最悪』を読破。

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)

坂道を転がり落ちていく、という表現にふさわしい。
人は出自や環境に支配されているということ。ダメだと分かっていてもなりゆきや状況に流される人の弱さ、浅はかさ、狂気。それらをものすごく身近に、わが身にも起こりうる切実なことに感じさせる筆力に脱帽。
ずっしりと重い気持ちにさせられたけれど、 後半は、哀しいのに少し可笑しく、爽快でもある。“人生は、おかしくって、少し哀しい”─というのは、コーエン兄弟の映画「ファーゴ」(1996)が公開された当時のキャッチコピーだったが、それを思い出した。そういえば、あの映画もなし崩しに深刻な状況に追い詰められていく物語だった。本当にシリアスなときの人間は、客観的にみると、得てして笑っちゃうほど滑稽なものなのかもしれない。
日本人が臆病なのは、海があるから逃げられないから、大陸だったらいいのに─という独白が、とても印象的だった。